1)他の福音書にも似た内容がある場合
他の福音書にも似た内容がある場合、その箇所は並行箇所と呼ばれています。この並行箇所は各福音書で配置が違うことがありますが、この違いこそが各福音書を読み解くにあたって重要な点となり得ます。なぜならそこには各福音記者の編集意図が見られるからです。だからこそ前後関係から該当箇所を考えることも必要になるのです。また、同じような話であったとしても各福音書で表現が微妙に違うことがあったり、他には見られない言葉が使われていたりすることもあります。この言葉の使われ方の違いに注目することによって、そこに福音記者がエピソードに描き込もうとした意図を見出せることもあります。
2)並行箇所がない場合
並行箇所がない場合(それぞれの福音書に独自の記述がある場合)、そこには福音記者独自の神学的、聖書的視点が描かれていると言えます。したがって読む際にはその話自体の背景やその話の前後でどのような話が置かれているのかということにも注意が必要になります。時として前後関係から離れて独立した話として理解しようとすることも必要かも知れません。
3)忘れてはならないこと
イエスは旧約聖書が預言していた救い主であることから新約聖書は当然のことながら旧約聖書を踏襲し、新約的観点から旧約の意味を問い直した箇所が多数あります。このため福音書だけを読んでもその深みに達することはできないことが少なくありません。そもそも新約聖書に於ける「聖書」とは私たちが旧約聖書と呼ぶものなのです。そして多くのユダヤ人は旧約聖書を知っていたのですから、それを下敷きとして新約が書かれていることを忘れてはなりません。また、これとは逆に新約では旧約の内容がどのように描き直されているのかにも注目しなければなりません。つまり旧約と新約との間に断絶はないのです。