主日の福音

2026年2月1日 【年間第四主日マタイ5:1-12a】

今日の福音朗読は有名な山上の説教と呼ばれる箇所です。「真福八端」とも呼ばれ、信者以外の方々にも広く知られていますが、ここでは6節に着目します。そこには

義に飢え渇く人々は、幸いである、/その人たちは満たされる(5:6)。

とあります。普通に考えれば飢えや渇きを感じることは決して幸いではありません。しかし並行箇所であるルカ福音書と比較するとマタイには「義に」という言葉が使われています(ルカ6:21)。このことに福音書記者マタイの特徴があると思われます。飢えと渇きは死を意味するのですから、これらが「義」にからんで幸いに転じるとは一体どういうことでしょうか。とりあえずこの箇所を原語の意味合いを踏まえて直訳すれば、“幸いである! 義を渇望して飢える者たち、またその義を渇き求める者たちは。”となります。

そこでまず「飢え」と「渇き」という言葉が同時に使われている場面を旧約聖書の中に求めると意外なほど数多く見られます。実に「飢える」と「渇く」といった命に関する二つの言葉は出エジプトでの出来事に関して同時に一組で用いて表現されることが多いのです。

その一例を挙げると詩編には、

彼らは、荒れ野で迷い/砂漠で人の住む町への道を見失った(詩編107:4)。
飢え、渇き、魂は衰え果てた(詩編107:5)。

とあります。群衆は暗記するほど聞いたであろう出エジプトの話や耳に馴染んだこの詩編を思い起こしながらイエス様の言葉を聞いていたことと思われます。そして荒れ野で迷うかの如く、信仰を欠いているようにも思える自分は“神の義”を求めているのか、否、日々の中で神様に信頼と感謝をもっているのかと自問していたかも知れません。それ程までに出エジプトは民族の記憶として語り継がれてきたのです。当たり前のことなのですが、現在は過去の上に成り立っています。そもそも飢えや渇きを経験しないこと自体がイエス様の時代にあって幸いなことです。

逆に考えれば生きる現実は義に生きようとすることによって実際に飢えや渇きに繋がってしまったかも知れません。律法に従って生きることが本当に幸いなことであるのかは当時の人も大きな疑問をもっていたことでしょう。しかしイエス様はもしそうであったとしても神の義に従おうとするのなら、「その人たちは満たされる」と言われるのです。この意味を考えてみましょう。

イエス様の語られた「義」「満たされる」が同時に使われている箇所が詩編の中に、

主よ、御手をもって彼らを絶ち、この世から絶ち/命ある者の中から彼らの分を絶ってください。しかし、御もとに隠れる人には/豊かに食べ物をお与えください。子らも食べて飽き、子孫にも豊かに残すように(詩編17:14)。
わたしは正しさを認められ、御顔を仰ぎ望み/目覚めるときには御姿を拝して/満ち足りることができるでしょう(詩編17:15)。

とあります。この一連の箇所でイスラエルの民はモーセを通じて語られた神の言葉、また先祖伝来の契約を常に思い起こさなければならないということがうたわれています。確かに「義」とは“神の正しさ”を意味します。しかしこの「義」とは(神の)救いや勝利、そして(神の民としての)繁栄をも意味します。日々の生活に於ける煩い事によって人間は自分を遥かに超える天地万物の創り主やその御心、また計らいに無関心になってしまうものです。否、考えようとも思わないかも知れません。それゆえイエス様は現実から少し離れて自分たちは神様の御手の中にあることを「義」と「満たされる」という言葉で表現されたのではないでしょうか。

そのことを踏まえると、

慈しみの御業を示してください。あなたを避けどころとする人を/立ち向かう者から/右の御手をもって救ってください(詩編17:7)。
瞳のようにわたしを守り/あなたの翼の陰に隠してください(詩編17:8)。

という詩編も思い起こされます。実に視線の先に神様をおいている者が本当に幸いな者なのではないでしょうか。

改めて神の「義」を考えると旧約聖書続編の知恵の書の一節が思い起こされます。そこには、

義を実現させたその木は祝福される(知恵14:7)。

とあります。神様の正しさを実現しようとするのなら必ずそこに祝福があるはずです。それは祝福を求めるために何かをするということではありません。後になって自分の為したことや敢えて為さなかったことが神様の御心にかなうものであったということに気が付くこともあります。また他者から困難な問題を押し付けられたり、また難儀を招いたと揶揄やゆされようとも、実はそれによって神様の愛に満たされることになるかも知れません。困難の中にあって神様の恵みは現れるということをイエス様は「義に飢え渇く人々は、幸いである、/その人たちは満たされる」と言う言葉で語られているように思えます。

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