ペトロと一緒に走ったもう一人の弟子の方が早く墓についたにもかかわらず彼は墓の中には入りませんでした。ここでシラ書の一節が思い起こされます。そこには「愚か者は、すぐに家の中に入り込むが、/経験に富む人は、門前で遠慮深くたたずむ」とあります(シラ21:22)。この「すぐに」は「速く」と原語では同じです。この節を踏まえれば墓の中に入らなかった弟子は「愚か者ではない」という意味が織り込まれているのかも知れません。確かにいささか直情的なペトロに対してこの弟子が思慮深い者だと語られているようにも思えます。もしかしたら福音記者ヨハネはこの弟子に読者のキリスト信者や未だにイエス様を信じていない者を重ねているのかも知れません。そこにはイエス様と実際に交わりを持っていたペトロよりも早く空の墓の意味を悟りなさいという訴えが込められていると考えられるからです。またこの弟子が墓の中にすぐに入らなかったと書き加えることによって、豊かな知識を持っていることで却って復活の事実を疑ってしまう自分を見つめなさいということを訴えているのかも知れません。このように考えると二人の弟子の違いを描いた描写は味わい深いものになります。