ハバクク書には「富」に関して先程引用した節の前に、
確かに富は人を欺く。高ぶる者は目指すところに達しない。彼は陰府のように喉を広げ/死のように飽くことがない。彼はすべての国を自分のもとに集め/すべての民を自分のもとに引き寄せる(ハバクク2:5)。
とあります。ここでの「富」と訳された言葉は原語では「ぶどう酒」を意味します(注)。また「欺く」は“裏切る”を意味します。ということは差し詰め財産とは酒のようなものであり、人を酔わせ、惑わせ、そして裏切りを働かせるものということでしょう。貪欲さは人間にとって避けられない死のようにすべての人を飲み込むものであり、それは口を開けた地獄のようなものであると預言者ハバククは語っているのです。
ハバクク書とは預言書でありバビロニア帝国の脅威にあっての預言です。本当に価値あるものを知らず欲望に猛り狂った酩酊者の集まりのような者たちと評されるバビロニアは、後にペルシアに征服され、その後は歴史から姿を消しました。まさに貪欲は個人のことだけではなく個人の集まりである国家でも同じく国を滅ぼす原因ともなるのです。
(注)クムランの洞穴から発見され、「ハバクク書注解(1QpHab)」と名付けられた巻物によれば当該箇所は「げに富は高ぶる者を欺く」と訳されている。この「富」には脚注が付され、そこには“hwn MTではhjjn「酒」”と書かれている(日本聖書学研究所『復刻 死海文書 テキストの翻訳と解説』山本書店、1994年、217、287頁)。この解説は「ここでは“富”と記されているがマソラ本文では“酒”と書かれている」という意味である。