聖書を読むにあたって

【七十人訳聖書について】

 「七十人訳聖書*1 とは?

アレキサンダー大王のパレスチナ征服の成功度合いはユダヤ人が持つヘブライ語の認識能力の低下に反比例するものでした。そしてついにはイスラエルの民の多くが彼らの拠り所である旧約聖書を最早もはやヘブライ語では理解し得なくなるまでに至ったのです。こうした状況下で神に選ばれた民としてのアイデンティティ*2の喪失を回避するためにアレクサンドリア*3のユダヤ人共同体で聖書がヘブライ語からギリシア語に翻訳されたと言われています*4

この七十人訳聖書は紀元前3-1世紀に成立したと言われています。厳密には逐語訳とはなっていません。伝説によれば72人の訳者により72日間かけて翻訳されたというのがこの書の名の由来であると言われています。


(*1)七十人訳聖書とはギリシア語に訳された旧約聖書(ヘブライ語)のことである(前3-1世紀に成立)。厳密には逐語訳とはなっていない。伝説によれば72人の訳者により72日間かけて翻訳されたというのがこの書の名の由来であるとされている。
(*2)“identity”は「自分が自分である」ということ、即ち、自分の個性や主体性、また独自性を意味する。
(*3)エジプト北部に位置する地中海にのぞむ港湾都市。アレキサンダー大王にちなんで名づけられた。
(*4)上述のことを俗説とする秦剛平の説にも説得力がある。彼はギリシア語訳の創世記に於いてアダムとそれ以後の太祖たちが次の世代の太祖をもうけた年齢を調べた結果、その年齢が例外を除いて基本的に100歳以上上乗せして計算されていることに着目する。そしてそこに民族の歴史の古さにその民族の優劣におく古代オリエントの文化を背景として七十人訳聖書が成立したと考えている(秦剛平「七十人訳聖書から垣間見るユダヤ人社会」『現代思想 4』青土社、1998年、104-111頁、参照)。 

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