主日の福音

2026年2月15日 【年間第六主日マタイ5:17-37】

今日、イエス様は

だから、これらの最も小さな掟を一つでも破り、そうするようにと人に教える者は、天の国で最も小さい者と呼ばれる。しかし、それを守り、そうするように教える者は、天の国で大いなる者と呼ばれる(5:19)。

と言われました。この言葉は律法に従って生きるべきユダヤ人にとっても相応ふさわしくない言葉のように思われます。なぜなら掟を破ることを勧める者も守ることを勧める者も共に天の国に入れることが前提となっていると読めるからです。

確かに天の国では神様に反するものは一切存在し得ません。このことは「ヤコブの手紙」の「律法全体を守ったとしても、一つの点でおちどがあるなら、すべての点について有罪となるからです」という言葉から考えても明らかです(ヤコブ20:10)。

「ヤコブの手紙」の成立年代は正確には分かりません。しかし律法に関してこのような考え方…律法の遵守によってこそ救われるという考えは福音書が書かれる以前から伝統的に存在していたと考えられます。だからこそイエス様の時代にあってファリサイ派や律法学者たちに権威があったのです。これはユダヤ人たちの単なる伝統ではなく、歴史を背景としたものでもあります。

ユダヤ人たちが律法の遵守を重んじることについてごく簡単に触れておきましょう。歴史的に考えればヘレニズム(ギリシア)文化がユダヤ人社会へ浸透してきたことへの反発がその前提となっています。特にディアスポラ(パレスチナ地域から離散したユダヤ人社会)や母国のヘレニズム的傾向 … ギリシア文化に染まっていく社会に対する激しい抵抗があったと言われています。こうした抵抗感が一体感を生み、やがて一つの大きな運動になりました。こうした運動には祭司たちだけではなく、一般人であっても律法に忠実たらんとする人々が賛同したことに特徴があります。そして古い伝統に厳密に固執しようとする者たちは自らを「敬虔なもの達(ハシディーム)」と呼びました。やがて組織化され、後の厳格派、即ち、ファリサイ派やエッセネ派の源流となったとも考えられています。彼等の根本には律法の徹底によってこそ神の救いがもたらされるという理解があるのです。

その律法をささいなことでも破る者やそうすることをそそのかす者であっても天の国に入れるかのようにイエス様が語るのはどういうわけでしょうか。そこでイエス様の言葉を改めて考えてみたいと思います。

イエス様の言葉は原語では「呼ばれるであろう」と未来形で表現されています。ということは天の国に入れない可能性が含まれているのではないかと考えられます。つまりイエス様はここでは天の国に入れるか否かについては、それ程の重きを置いて語られているのではないと考えられます。ではどこが大切かと言えばこの話の結びにある、

言っておくが、あなたがたの義が律法学者やファリサイ派の人々の義にまさっていなければ、あなたがたは決して天の国に入ることができない(5:20)。

ではないかと思われます。ここから考えると律法に関して重要なことは人間的な正しさのことではなく、神の「義」であると考えられるでしょう。

ここでの「義」とは形式的に律法を守ることを意味するのではなく、神様の前にあっての正しさを意味します。また“まさる”と訳された言葉ですが、原語では“限界を超過させる”という意味をもちます。であればイエス様は弟子たちに宗教的権威者たちよりも、律法の背景にある神様の愛と憐れみをより深く理解しようとしなければ「天の国に入ることができない」ということを伝えているということではないでしょうか(5:20)。

イエス様は「教える」を意味する言葉を繰り返し、「掟」をもって語られますが、ここでの「掟」は原語では律法の一つひとつのことを意味することもあります。これらが同時に使われている箇所として申命記が思い起こされます。そこには、

主はそのとき、あなたたちが渡って行って得ようとしている土地で行うべき掟と法をあなたたちに教えるようにわたしに命じられた(申命記4:14)。

とあります。これは「イスラエルよ。今、わたしが教える掟と法を忠実に行いなさい。そうすればあなたたちは命を得、あなたたちの先祖の神、主が与えられる土地に入って、それを得ることができるであろう」という言葉から始まる「モーセの勧告」と題される最後の箇所です(申命記4:1)。これらを踏まえイエス様は「天の国で」と繰り返されているのでしょう。申命記で「あなたたちが渡って行って得ようとしている土地」とあるように、天の国は未だに実現していません。そしてその理由を言葉の裏で語っていると思われます。天の国は福音を信じることが条件であるからこそ、イエス様は「律法学者やファリサイ派の人々の義にまさっていなければ」と言われたのではないでしょうか(5:20)。

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