新約聖書の「コリントの信徒への手紙一」には次のような一節があります。
兄弟たち、お願いします。あなたがたも知っているように、ステファナの一家は、アカイア州の初穂で、聖なる者たちに対して労を惜しまず世話をしてくれました(16章15節; 新共同訳)
この聖句は伝統的な英語聖書である欽定訳(Authorized Version)では次のように書かれていました。
日本人初の東京帝国大学英文科教授であり日本の英語学の基礎を築いた市河三喜博士(1886年ー1970年)は著書『聖書の英語』の中でこのaddicted themselvesに触れています。
市河博士はその句についてdevoted themselvesの意味であるとし、addictという言葉は「今日は(addictの)意味が堕落して悪習慣に『耽る』という意味に使われる」と解説しています(市河 151頁)。
『研究社新英和大辞典 第5版』にはaddictの動詞形として次のような意味が載せられています(新英和大辞典 25頁)。
- [通常Passiveまたは〜oneselfで]…に(麻薬などを)常用させる、(…に)中毒させる、(酒色などに)溺れさせる、耽溺させる (スポーツ・趣味などに)耽らせる、熱中させる
- (人を)麻薬中毒(常習者)にする
私たちが今日、addictという言葉を聞くとすぐにdrug addictという言葉を思い浮かべますね。
ところで、このaddictの語源はラテン語のaddicereです。それには
1. 気に入る、意に適う 2. 判決して与える、判決を下す、宣言する 3.最高入札者に渡す 4.義務を負わせる 5.競売に付す、売りに出す 6.献納する、捧げる、委ねる
などの意味があり、6.から更に「献身する、奴僕として身を捧る」という意味にも使われていました(羅和辞典 12頁)
初めに引用したように新共同訳ではこのaddicted themselvesにあたる部分は「労を惜しまず世話をしてくれました」と訳されています。まさに「献身的に奉仕をした」ということになります。
なお、現代の代表的英語聖書の一つであるRevised Standard Versionでは
Now, brethren, you know that the household of Stephanas were the first converts in Achaia, and they have devoted themselves to the service of the saints;
と、addictの替わりにdevoteという言葉が使われています。
最後に、英検準一級ではaddictの派生語のaddiction(「依存」、見出し番号754)が「覚えておきたい単語」として、また一級では同じく派生語のaddictive(「中毒性のある」、見出し語番号1497)が「出題される可能性の高い単語」としてそれぞれ参考書に記載されています。
(文中の太字boldは全て当ブログ管理者に因るものです)
<参考文献>
・市河三喜『聖書の英語』研究社、昭和32年2月10日第九版
・小稲義男編者代表『新英和大辞典 第5版』研究社、1981年第2刷
・田中秀央編『増訂新版 羅和辞典』研究社、1966年増訂新版
・旺文社編『英検準1級 でる順パス単 6訂版』旺文社、2026年
・旺文社編『英検1級 でる順パス単 5訂版』旺文社、2025年重版